不思議体験

夏の訪問者(旧タイトル:訪問者)

夏の訪問者(旧タイトル:訪問者)

不思議体験は、文字通り、私たち姉妹がこれまでに体験した不思議な出来事を書き留めたものです。阿部ヒロの旧ブログから引き継ぐにあたって文章を整理しました。また場所や人物については、現在もそこに暮らす人がいるため、特定できないように仮名・仮称を使用している場合があります。ご了承ください。

夏の訪問者

私(阿部ヒロ)は大学生でした。
夏も真っ盛り、
テレビで高校野球の中継をしていたので、ちょうど今時分です。

私はひとり、茶の間で高校野球をぼんやりと見ながら、留守番をしていたのです。
茶の間は家の真ん中にあって仏壇もそこにしつらえてあります。障子はあけはなたれていて、掃き出し窓には網戸がはいっています。夏仕様の調度にしていると、ここから玄関も庭もよく見えました。
蝉が鳴いていました。
よく晴れた気温の高い日でしたが、昼寝をするにはピッタリの心地よい風が家の中を吹き抜けていました。

ふと、人が尋ねてきた気配に玄関の方を見ると、内玄関の引き戸の向こうに年配の男性が立っていました。
白いシャツの夏のスーツ姿。帽子を片手にもち、その腕にはステッキがかかっています。
インターホンが鳴った覚えもなく、表のくぐりの鍵をかけ忘れたのだと思い、一瞬ぎょっとしました。
おそるおそる、玄関の三和土(たたき)に降りて来たわたしのいぶかしげな様子に、その男性はこういいました。
『お宅のおじいさんに昔、世話になった者です。
たいへんご無沙汰していましたが、先日こちらに戻りましたら、亡くなられたと聞きました。
生前にご挨拶にうかがえず申し訳ありません。
突然失礼とは思いますが、お線香だけでもあげさせてもらえませんか?』

冷静に考えるととてもアヤシイ話です。祖父が亡くなったのはもう6年も前でしたから。
しかし、この時わたしは何の躊躇もせず、この訪問者を茶の間の仏壇の前に招き入れたのでした。

この人は仏前でしばらく手を合わせていました。
私がお茶を出すタイミングを計りかねていると、くるりと向き直ってこういったのです。
『●●●をどうぞよろしくお願いします。』
『??』
何のことかわからず、首を傾げる私にその人は深々と頭をさげました。
ふと気がつくと、甲子園中継をしていたはずのテレビは、
いつのまにか高校サッカーの試合に変わっているではありませんか。

その瞬間、
ゆらりと視界が暗転し、わたしは茶の間でぽっかり目を開けたのです。

単調な蝉の声と吹き抜ける風に、思わずうとうとしていたのでした。
あの老人の姿はありませんでしたが、仏壇の扉は開いていて
テレビはつけっぱなしのまま甲子園の中継が続いていました。

___
あの夏の出来事は日常のうちにすっかり記憶の奥にしまわれていきました。

さらに数年がたち、私は社会人になっていました。
「どうしても会わせたい人がいるから来てほしい。」と、知り合いに誘われたのは夏でした。
軽い気持ちで待ち合わせの場所にいくと、知り合いは『見知らぬ人』と一緒に待っていました。
この人?と思っていると、向こうも顔を上げます。
その瞬間でした。
グワンと身体の中の何かが、別の次元に吹っ飛んだような感じを受けたのです。
あのときの夏の訪問客の姿がありありと思い出されました。
頭の中にスクリーンがあって、いきなり上映が始まったような唐突さでした。
私は思わず
『こういう人を知りませんか?』と、初対面にも関わらず、唐突にあの夏の訪問者の話を始めてしまったのです。
その『見知ぬ人』は驚く風でもなく、黙って私の話を聞いていました。

話が一通り終わると、その『見知らぬ人』は口を開きました。
『自分は訳あって母方のおじいさんに育てられました。このお祖父さんはすでに故人です。とてもかわいがってもらいました。学生時代はサッカーの選手で、インターハイにも出場しました。』
そして最後にこうしめくくったのでした。

『こんにちは。自分の名前は●●●といいます。』
それは、あの夏の日の訪問者が、私に向かって深々と頭を下げた時にいった名前と同じ、だったのです。

了。

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