不思議体験
たたずむ影
不思議体験は、文字通り、私たち姉妹がこれまでに体験した不思議な出来事を書き留めたものです。阿部ヒロの旧ブログから引き継ぐにあたっては文章を整理しました。旧ブログには掲載できなかったものも少しずつアップします。なお場所や人物については、現在もそこに暮らす人がいるため、特定できないように仮名・仮称を使用している場合があります。ご了承ください。
たたずむ影
前からたびたび見かけていたのです。
やせて黒い手足に、白い半袖のシャツと短パンを着た子どもの影。
明らかにこの世のものではありません。
いつのころからか、その家の玄関の前に、ずっとたたずんでいました。
こちらに背をむけたまま。
初めてみかけた時は、黒っぽい霧の塊のようでした。
毎日見るわけではないの ですが、何度か通りかかるたびに、その形は徐々にかわっていったのです。
こういうものを見かけた時に、土臭さやお線香のような匂いがするときは、近々その家の一族に死者が出ます…
これは今までの経験で、なんとなくわかっていました。
しかし、今回のように徐々に影から形がはっきりとしていくというのは、経験がありません。
その家は老夫婦とまだ未婚の息子が暮らしています。
娘は県外に嫁いでいました。
最近、その娘夫婦が近所に越してきて、孫を連れてちょくちょく遊びにくるらしいのです。
小さな三輪車が停まっていたり、可愛いピンクの洋服がベランダに干してあったり、
そんな光景を見かけるたびに、家自体が賑やかになっていく理由がそれでよくわかりました。
しかし、その間も相変わらずその影は伸びたり縮んだりを繰り返しています。
たまに通りかかる限り、必ずそこにいて見かけるたびに、
始めに書いたように少しづつ輪郭がはっきりしてきていました。
そして、いつしかその影は、少年?のシルエットになっていたのです。
少年といっても、シルエットですので顔はわかりません。相変わらず、こちらには背を向けたままでした。
頭に何かかぶっているようにも見えるのですが、それもはっきり見えません。
手足は真っ黒な霧状のものの集合体なのに、身につけている半袖のシャツと短パンが真っ白に浮かび上がっています。
ちょうどそれは昔見た、影絵の人形劇のようでした。
ある日、思いきって声をかけようと、立ち止まりました。
そのとたん、
影は頭の部分をくるりとこちらに向けたのです。
顔は、いや本当ならそこにあるべき顔は、何もありませんでした。
ただただ、どこまでも暗い闇が広がっているだけだったのです。
気がつくと、私は自分の家の前に立っていました。翌日、
再びその家の前を通った時には、影はすっかり消えていました。
行くべきところにかえったのかもしれない、と思い、それっきり、そのまますっかり忘れていたのでした。
それから数ヶ月して、その家にふたり目の孫が産まれたことを知りました。
待望の男の子だったそうす。
了。
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