不思議体験

白い帽子(旧タイトル:横切る人)

白い帽子(旧タイトル:横切る人)

不思議体験は、文字通り、私たち姉妹がこれまでに体験した不思議な出来事を書き留めたものです。阿部ヒロの旧ブログから引き継ぐにあたって文章を整理しました。また場所や人物については、現在もそこに暮らす人がいるため、特定できないように仮名・仮称を使用している場合があります。ご了承ください。

=白い帽子=

実家は昭和の木造日本家屋です。
この頃の一戸建て住宅はだいたいスタイルが決まっていて、玄関とは別に裏口(勝手口)があり、勝手口と玄関は内庭でつながっているのがスタンダードです。

濡れ縁に続く廊下側のガラス戸を網戸に替えて家の中の障子を開け放っておくだけで、風が抜けていきます。
夏は家の中から小さな庭の植え込みをながめながら、よく冷えたスイカと麦茶で涼をとったものです。

当時私は付き合っていた人がいて、その夏、初めてその人を連れて実家に戻っていました。
妹も夏休みで在宅中。両親も一緒にみんなで素麺でも食べようとワイワイと準備をはじめた時、
彼が煙草をきらしたのでちょっと買ってくる、と言い出しました。
自販機は表通りにあります。
一緒に行こうかといいましたが、わかるから大丈夫、といって彼はひとりででかけていきました。

麺もゆで上がり、付け合わせのおかずの用意も整った時、庭をさっと横切る人影がありました。
わたしは反射的に彼が戻ったのだと思い、玄関の引き戸の鍵を開けに出ました。

が、そこには誰もいません。

最初にお話ししましたが、実家は昭和の木造日本家屋です。
家の回りをぐるりと塀と生け垣に囲われていて、裏木戸を入ると勝手口、
あるいはそのまま庭を横切ると玄関にたどり着く造りになっています。
庭、と言っても狭いので、玄関までたいしてかかりません。

なのに、玄関の内引き戸を開けたそこには誰ひとりいないのです。
冷静に思い返せば、確かに横切ったのは男の人でした。違和感を感じたのはその服装です。
網戸越しに見えたその人は白い帽子を目深にかぶり、白っぽい着物が、羽織から透けて見えました。
そして足早に、足音もなく、ススッ……と横切って行ったのです。
それも奇妙です。歩くと人の頭は微妙に上下するものですが、その男の人の頭の位置はまったく変わらないまま、ただ横になめらかに移動していったのですから。

彼は帽子をかぶりません。
今日の服装も、ジーンズにポロシャツという軽装です。

間もなく、裏木戸が開いて今度こそ?彼がもどってきました。
玄関で迎えながら、念のため、
「さっき、一度帰ってきたの?」と尋ねると、
「え?今戻ったばかりだよ。ねぼけたのか?」と笑われました。
彼にはそれ以上、その話をすることはできませんでした。

実は、

その男の人に心当たりがない、事もないのです。
20年ほど前に他界した祖父は、夏のこういう時期には決まってカンカン帽と呼ばれた白いパナマ帽子を被り、絽の着物を着て出かけていきました。
初孫の私を目に入れても痛くないほどかわいがってくれた人でした。
何かを伝えにきたのだ、と思います。

妹に話すと
「私も見たよ。錯覚かと思って黙ってた。あれ、おじいちゃんだよね。」と言いました。

旧盆のころのお話です。

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